09_稲作・種まき前の準備ガイド_塩水選〜芽止め | 有限会社 百津屋商店

09_稲作・種まき前の準備ガイド_塩水選〜芽止め

初めての稲作にチャレンジする皆さん、ゆるっと農業入門をご覧いただきありがとうございます。
地味と思われる工程もあったと思いますが、基礎知識は必ず裏切りません。

これまで、稲作にとって土壌がなぜ大事なのか、土壌を知ることでもたらされる大きな影響、土壌改良で導かれる稲作成功への道などを学んできました。

前回の記事では「品種の選び方」を学びましたね。

復習はこちら

春〜夏にかけて田んぼ一面に広がる緑の絨毯。 とても美しい風景ですよね。
それは決して偶然生み出されたものではなく、農家の細やかな気配りと技術の上に成り立っています。
その中でも、稲作のスタートラインを切る重要な作業が「種まき」です。
稲作は、単に種もみをまくだけではなく、その前後の準備とケアが豊かな収穫への鍵です。
今回は、稲作初心者の方向けに、種まき前の準備作業のポイントについて詳しく解説していきます。

陰干しre (6)

テーマ⑨

稲作を成功させる
種まき前の準備

2つの種まき方法

稲作の種まきの方法は大きく分けて「直播」と「移植栽培」の2つの方法があります。

直播栽培

直播とは、直接田んぼに種籾をまく方法です。
直播は省力的な反面、雑草が生えやすく、管理が難しくなる傾向があります。
そのため、近年ではあまり主流ではありません。

移植栽培(育苗栽培)

移植栽培とは、育苗箱に種籾をまいて苗を育て、その後田植えを行う方法です。
移植栽培は、直播と比較して育苗中の雑草の心配がなく、均一な苗が育ちやすいというメリットがあります。
そのため、現在ではこちらが主流となっています。

我々の新潟県下越エリアではほぼ「移植栽培」がメインです。
今回の記事は「移植栽培」の場合としてご紹介させていただきます。

稲の種まき前準備の重要性

種まき準備のメリット

稲作にチャレンジする前は「種を土にまく」程度に思われていた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、稲作で生計を立てていく覚悟を持って取り組まれるのであれば、種まき前の準備は必須で行うことをお勧めします。

稲作における種まき前の準備は、稲作の成功を左右する重要な工程です。
なぜなら、種まきの良し悪しが、後の生育に大きく影響を与えるからです。
しかし、準備を怠ると、発芽不良や病害など、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。

稲作において種まき準備をすることのメリットは大きいです。

発芽率を高め、生育を揃える

種まき前の適切な準備により、発芽率を大幅に向上させることができます。

発芽の均一

催芽処理により、種子を均一に発芽させることができ、生育の均一性を保つことが可能です。

病害や軟弱苗を防ぐ

適切な準備を怠ると、病害の発生リスクが高まったり素質の悪い軟弱な苗ができやすく、収穫量や品質に大きく影響を与えます。

高品質な米を収穫する

上記のメリットにより、高品質な米を収穫することが期待できます。

種まき準備5ステップ_塩水選、消毒、浸種、催芽、芽止め

種もみ袋re

種まき前に丈夫な稲を仕込む

稲作成功への土台を築くため、種から丁寧に育てることがとても重要です。
種まきの準備には、塩水選(えんすいせん)、消毒、浸種(しんしゅ)、催芽(さいが)、そして芽止め(めどめ)があります。

さっそく聞き慣れない専門用語ですが、用語は余裕があれば覚える程度でかまわないでしょう。
まずは「何のためか、何をするのか」をぜひ覚えてください。
それぞれの方法について説明していきます。

1.塩水選(えんすいせん):健全な種子を見極める第一歩

種子の中には、見た目では判断できない不良品が紛れています。
塩水選は、これらを効率的に取り除く最初のステップです。
不思議と、塩水に種を浸すことで、中身(胚乳)の充実した健康な種子だけが沈み、不良品は浮かび上がります。
このシンプルながらも効果的な方法で、高品質な稲作への土台を築きましょう。

必要性・重要性

「発芽しない種」は場所と養分を無駄にするだけでなく、病害リスクを高めてしまいます。
発芽率の低い種や病気の種を事前に取り除くことで、均一で健康な苗を育てることができます。
塩水選を行うことで、不良種を取り除き、発芽率を高めて稲作の成功率を大幅に向上させることが可能となります。

やり方

  1. うるち米の場合、水10リットルに対して塩2.1Kgを溶かし、塩水を作成します(比重1.13)。
  2. 種を塩水に投入し軽くかき混ぜ、しばし待ちます。 浮いてきた種は不要種なので取り除きます。沈んだ種が健康な種です。
  3. 沈んだ種を水でよく洗い、塩分を完全に除去します。

初心者向けのコツ

  • 比重は、なんと「生卵」でも確認できます。
    生卵の確認方法はこちらの記事で詳細を記載しております。
  • 塩水の比重を正確に保つことが重要です。比重計を使用するとより精度が高まります。
    (比重計はAmazonでも手軽に購入できます。参考商品:https://amzn.to/48742g0
  • 塩水選後は種もみを徹底的に水洗いして水切りをしましょう。

2.消毒:病原菌や害虫を除去する

種籾には目に見えないカビや病原菌が付着している可能性があります。
健全な苗を育てるためには、病害リスクを極力減らすことが大切です。
消毒は、それらを殺菌し、発芽後の苗立ち不良や病気の発生を防ぐための作業です。

必要性・重要性

消毒により、発育初期の病害を防ぎ、安定した生育環境を整えることができます。
カビや病害菌を徹底排除し、健全な生育を促しましょう。

やり方(一例)

塩水選で選別した種をあらかじめ種もみ袋へ入れておきます。
(種もみ袋はAmazonでも手に入ります。参考商品:https://amzn.to/490fOdo

温湯消毒の場合

  1. 60℃のお湯を準備します。お湯に10分ほど浸します。
  2. 冷水で急冷させます。

薬剤消毒の場合

  1. 専用の種子消毒剤を用意します。
  2. 消毒剤と水を指定の比率で混合し、種子を浸します。
  3. 指定時間後に種子を取り出します。

初心者向けのコツ

  • 種もみ袋ごとに品種の名札をつけることで品種間違いのリスクを減らせます。
  • 種もみ袋へギュウギュウに詰めずに余裕をもって入れてください。
  • 薬剤の種類や希釈倍数、処理時間を厳守し、取り扱いには十分注意してください。
  • 温湯消毒は温度と時間を間違うと、消毒効果が薄れたり発芽不良が発生するので気をつけましょう。
  • 井戸水などは種もみが変色することがあるので必ず水道水を使いましょう。
  • 漬ける際には袋を良く揺すって消毒剤が均一に浸透しやすくしましょう。
  • 消毒後は種もみの水洗いはせずにすぐに浸種に移行します。

3.浸種(しんしゅ):水分吸収させて発芽をスムーズにする

種もみは、発芽に必要な水分を十分に吸収してから芽を出す性質があります。
浸種は、種籾に十分な水分を吸収させることで、発芽を揃え、発芽率を向上させるための作業です。
種籾が発芽に必要な水分を吸収させるために水に浸けます。

必要性・重要性

水分不足は発芽不良の原因となります。
種子を水に浸すことで、発芽に必要な水分を吸収させ、発芽率を高めることができます。
また、種子の発芽を均一にすることも可能になります。

やり方

  1. 清潔な水に種子を浸します。
  2. 水は何度か新鮮なものに交換し、種子に十分な酸素を供給します。

初心者向けのコツ

  • 種もみごとに吸水するスピードが異なります。 10~13℃の水温で10日間ほどかけてじっくりと吸水させます。水温は高すぎても低すぎても良くありません。
  • 最初は3日、その後は2日おきに水を更新を推奨しています。
  • 当店では浸種の最後の48時間前に「ネバルくん」を投入してもらうことを推奨しています。
    詳細はこちらの記事でご確認ください:https://momozuya.com/2021/02/tanemominojunbi-2021/

4.催芽(さいが):太い芽を揃えて出す

催芽は、温度や湿度を調整することで、発芽を揃えるための作業です。
十分に水を吸った種もみに温度をかけて発芽を促します。
適切な温度と湿度を保つことで、発芽率を向上させることができます。

必要性・重要性

催芽は、種子を発芽させるための前処理であり、種籾の発芽率を向上させることができます。
苗の生育を均一にするために行います。
この工程を経ることで、種子から苗への生長がスムーズに進みます。

やり方

  1. 催芽温度は水温28~30℃の環境を整えます。
  2. 十数時間〜二十時間、暖かく、湿度の高い環境に保ちます。
  3. よく観察し、芽が1㎜ほど出芽しぷっくりした状態にします。(ハトムネ状態)

専用の催芽機を使用することで管理の効率化もできます。

初心者向けのコツ

  • 芽が出そうになるとモミが透き通って見えてきます。品種によって発芽までの時間が違いますので、タイミングを逃さないように注意しましょう。
  • 芽が長く伸びすぎると、種まき作業が難しくなります。
  • 発芽した種子はデリケートなため、取り扱いには十分注意しましょう。

5.芽止め(めどめ):種の発芽をピタリと揃える

催芽の後の「芽止め」は、種子が適切な時期に播種されるまで、発芽を適切な状態で一時的に保持するための処理です。
この工程は、種子の発芽をコントロールし、種まき時に最適な状態を維持することが目的で、苗の品質に大きく影響します。

必要性・重要性

催芽後、発芽が進み過ぎると保管中や種まき時に芽が損傷しやすくなり、苗の生育に悪影響を及ぼす可能性があります。
芽止めを行うことで、それらのリスクを減らすことができます。
均一な発芽状態を維持することで、苗の生育が均一になり、収穫量と品質の向上が期待できます。

やり方

  • 催芽で90%以上が発芽したところで芽止めを行います。
  • 余熱で芽が伸びすぎないように種籾が13℃以下になるまで流水で良く冷やします。
  • 温度が下がったら陰干しで乾燥させます。

初心者向けのコツ

  • 乾きすぎると種が割れてしてしまう(胴割れ)ので、乾燥は必ず「陰干し」で行ってください。
  • 扇風機などで風を送ると時短になります。ただし、ストーブなどの温風は胴割れの原因になるのでやめましょう。
  • 乾燥後の保管中も定期的に種子の状態を確認し、問題がないかをチェックします。特に、カビの発生には注意が必要です。
  • 複数の品種を広げて乾かす際には名札をしっかりと固定して品種がわからなくならないように注意しましょう。よく風で飛んでいくようです。

以上の5ステップで、種もみの準備はここまでとなります。

稲作において、これらの準備工程を適切に実施することで、健康で強い苗を育てることが可能となり、その結果、高品質なお米を収穫することができます。
稲作初心者の方は、この記事を参考にして、一歩ずつ丁寧に作業を進めていくことをお勧めします。

これら種まき準備に関しては、現場紹介記事もぜひご参考にしてください。

【稲作】種もみの準備作業を確認しよう(塩水選~芽止め)【令和3年版】

まとめ

種まき前の準備は、稲作の成功を左右する重要な工程です。
今回ご紹介した5つの秘訣を参考に、心を込めて準備をして、種まきを迎えましょう。

  1. 塩水選 健全な種子を見極めます。
  2. 消毒 カビや病原菌を殺菌し、病害の被害を防ぎます。
  3. 浸種 発芽に必要な水分を吸収させ、発芽を促進します。
  4. 催芽 温度や湿度を調整することで、発芽を揃えます。
  5. 芽止め 発芽を止めて、生育状態を揃えます。

稲作は、ただ単に種をまき、水をやるだけの単純な作業ではありません。
土の準備から始まり、種の選別、消毒、そして発芽に至るまで、多くの愛情と注意を払う必要があります。

これらを適切に行うことで、健康で均一な苗の育成が可能になります。

ここまで大事に育てた種を植える日が楽しみになるでしょう。
この過程を通じて、お米を作る喜びを感じていただければ幸いです。

そして次回は「種まきのタイミング・方法」についての回です。


初心者にまず必要な知識は、「土壌を正しく知り、正しく管理」です。
ゆっくりと学んでいきましょう。

補足

  • 本記事はあくまでも一般的な指針であり、地域や品種、栽培方法によって最適な方法は異なります。専門家への相談や地域の慣習を参考に、臨機応変に対応してください。
シリーズについて
「年齢不問!稲作で食べていく!農業0~1年生×稲作×土づくりをしっかり学ぶ15本」
このシリーズは、稲作について何から手をつければよいか分からない農業未経験・稲作農業0〜1年生のための基礎ガイドを投稿しています。
なんとなく稲作農業に興味が湧いてきた、異業種から農業に意を決して転身、代々農家の後継ぎを決意、農業無知で稲作農家に嫁ぐ・・・などきっかけは様々でOK。
基本から学ぶ土作りのステップをなるべく楽しく学べて実践へ活かせるように、わかりやすく解説していきます。
稲作初心者の方のお役に立てたら何よりです。

シリーズはこちら

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百津屋代表

百津屋商店 代表:和田 一男

新潟県で50年。
稲作の教科書に載っていない秘訣を伝授します!
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著者情報

和田 浩一

和田 浩一

2005年に入社し、施肥技術指導員、一般毒劇物取扱者の資格を取得。
お客様の田んぼや畑でのお悩みを聞き取り、わかりやすい指導を心がけています。 ホームページにて農家の皆さんのお役に立てる情報記事を発信中。

趣味で事務所に展示しているメダカ・熱帯魚水槽にはお客様から「癒される」とお褒めいただいています。

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