初めての稲作にチャレンジする皆さん、ゆるっと農業入門をご覧いただきありがとうございます。
この稲作入門シリーズもついに最終回を迎える時が来ました。
このシリーズの締めくくりとして、15回目は「田植え」についてお届けします。
>シリーズの復習はこちら
田植えの成功は、準備段階にかかっています。
最高の苗と、それを迎える田んぼが準備万端、そしてあなたのやる気も十分かと思います。
ぜひそのモチベーションを保って田植えも楽しみましょう。
テーマ15
田植え・基本の流れとポイント
田植えは一見単純な作業に見えますが、実はさまざまな注意点があります。
いつ頃が適切な田植え時期なのか、苗をどのように選び扱うべきなのか、そして植え付ける際の手順など、細かいところまで気を配る必要があるのです。
今回は「田植え機」を使った場合の田植えについてご紹介します。
田植えの時期・タイミング
田植えに適した時期を見逃さない
田植えは、地域によって多少のずれはありますが、霜害の心配のない気温と日照時間が安定してくる頃、新潟県下越地域では5月初旬から中旬が一般的です。
この時期は地温が上がり、苗が活着しやすくなります。
時期が早いと霜害や生育の停滞、遅いと出穂までの生育期間が短くなり収穫量の減少や品質の低下の可能性があります。
早過ぎても遅すぎても問題が出るので、田植え適期を逃さないようにしましょう。
このシリーズ記事を順に読んでいただいているようでしたら、おさらいしてみてください。
田植えの時期は「種まきのタイミング」を見極める時点でおおよそ決めていましたね。
→こちらで復習:種まきのタイミングを見極める秘訣
そして、苗の状況・気候を踏まえて、田植えの実行日を最終決定しましょう。
田植えタイミングの目安:
- 気温 - 日平均気温が15度を超えた頃が目安です。
- 水温 - 田んぼの水温が13度以上あると良いです。
- 苗の生育状況 - 「稚苗」「中苗」「成苗」あらかじめ決めた生育ステージに育苗。
(こちらで復習:「 田植え前のハウス温度・水・肥料管理」ガイド) - 天気 - 晴天無風で日中の田面の暖かい時が最適です。
- 人員 - できれば経験者を含めた十分な人数を確保できるスケジュール。 年齢や体力を考慮し、休憩を挟んで時間配分しましょう。
こうしたチェックポイントを総合的に判断し、時期を見極めることが大切です。
経験を重ねるごとに、地域の気候に合った田植え時期が分かってくるはずですが、初心者のうちは地域の先輩農家、農業指導機関などに相談すると良いでしょう。
新潟県の方でしたら、お気軽に当店へご相談ください。
田植え機の管理、試運転
田植え機の失敗例から学ぶ
田植え機は、田植え作業を効率的に行うための機械です。
しかし、初めて使う人にとっては、操作方法や注意点などが分かりにくく、田植えトラブルが発生することもあります。
事前に田植え機の使用方法を確認し、試運転しておく必要があります。
田植え機を上手に使いこなして、スムーズな田植えを目指しましょう。
田植え機を使う際の注意点
- 取扱説明書を熟読する: 田植え機を使い始める前に、必ず取扱説明書をよく読んで、操作方法や安全上の注意事項を理解しましょう。
- 基本的なメンテナンス: エンジンオイルのチェックや回転部への注油などの基本的なメンテナンスを行うことが大切です。
- 試運転を行う: 実際に田んぼで使う前に、水のない場所で試運転を行い、操作に慣れるようにしておきましょう。
- 田植え機講習会: 地域の農業指導センターなどで、田植え機の使い方講習会が開催されている場合もあります。
- 動画サイト: 田植え機の使い方を解説している動画もありますので、参考にしてみてください。
※機種別の操作方法はここでは割愛します。
参考:
JAグループ「田植機 農作業安全チェックシート」
基本の事項がまとまっています。特に初心者の方はこちらのシートを活用してみると良いでしょう。
初めて田植え機を使う人向けの失敗例
よくある失敗例もご紹介します。
- 取扱説明書を読まずに操作して、田植え機を故障させてしまう。
- 田んぼの深みにハマって、田植え機が動かせなくなる。(深い所は耕運・代かき時に確認できる)
- 苗が途中で詰まってしまう。(主に育苗用培土の粘土の問題)
- 田植え機の向きやコース取りが不適切でうまく植えられない。
- 代かき不足、水位が深すぎるなどの原因で苗が浮く。
- 深い・柔らかい田んぼでは、設定よりも植え付けが深く、株間も狭くなりやすいです。
- 特に植え付けの深さ(3㎝)の設定に注意する(植えた苗を抜いて確認する。深植え注意)
- 欠株の発生
初めての田植え機使用でも、これらのポイントに注意して進めれば、スムーズに作業を行うことができるはずです。
上記の注意点やコツを参考に、安全に田植え作業を行いましょう。
稲作で使う単位「条(じょう)」とは?
「畳」ではなく「条」という単位
耳で「じょう」と聞くと、家の間取りで使う「畳」という単位に聞こえます。
ただし、稲作で使う際は漢字で「条」を指すことが多く、意味合いも少し変わってきます。
「畳」だと思って会話していくとズレが生じてしまいますので、「条」はぜひ覚えてください。
「条」とは、田んぼの中で一列に植えられた苗の列のことを指します。
田植え作業を効率的に進めるための、いわば作業単位ともいえる重要な指標なのです。
田植え機は複数の「条」で同時に苗を植えることができる機械で、それによって効率的に広い面積の田んぼに苗を植え付けることが可能です。
例えば、6条植えの田植え機であれば、1度に6列の苗を植え付けることになります。
条と条の間は「条間」と呼ばれますので、この機会に覚えておきましょう。
「条」の具体例文
- 「去年は30cm間隔で4条植えだったけど、今年は35cm間隔で3条植えにしてみようと思う」
- 「条間が狭すぎると、稲が日当たりや養分不足になり、生育が悪くなります」
苗を田んぼへ運ぶ
苗運びは体力勝負
田植え前に、育苗ハウスから苗を田んぼまで運搬する作業は、想像以上に大変で、かつ重要な作業であることをご存知でしょうか?
多くの農家にとって重労働であり必ず通る工程の一つです。
田植え当日にも潅水を行う(プールの場合は当日に落水する)為、苗は土に大量の水分を含んでおりとても重くなります。
百津屋商店調べでは苗箱1枚あたり8.6kgありました。
それを数百枚〜数千枚を手作業で運搬するのは、体力と根気が必要です。
苗箱は意外と重く、体力を相当に要求される作業となります。
長時間にわたる苗の移動は、作業者にとって肉体的な負担が大きいです。
特に体力に自信のない方や高齢の農家にとって、大きな負担となることがありますので、人手不足にならないよう、事前に人員を確保しておくことが重要です。
当店のお客さまは、一家総出で運ぶ姿もよく見られますし、我々もサポートさせていただくこともあります。
重い苗箱を数百枚、しゃがんで持ち上げてトラックに積み上げる作業は、腰に負担がかかり、腰痛の原因になることがあります。
・台車を活用して運搬する
・運搬する距離を短くするために、トラックを苗代近くに駐車する
・腰痛ベルトで腰を支え、負担を軽減する
・腰を曲げずに、膝を曲げてしゃがむ意識
など、少しでも負担が減る工夫をして田んぼへ運びましょう。
根付け肥の重要性
稲の生育のスタートダッシュを支える
田植え時は、苗が新しい環境に適応し始めるため、適時に栄養を供給することが重要です。
稲の健全な発育と充実した収穫量を得るために施肥しましょう。
(ここではすでに元肥が散布されていることを前提としています。)
百津屋商店では田植え時に散布する肥料を、根付きを促進させる肥料「根付け肥」と呼んでいます。
根付け肥を散布することで、苗の活着が早まり、初期生育を促進します。
大手メーカー(クボタ、ヤンマー、イセキなど)には「側条施肥田植機」と呼ばれる田植え機も多く、田植えと同時に肥料を施肥する機能が搭載されています。
田植えと肥料散布を同時にできるので、作業時間を大幅に短縮できます。
田植え後の動散での散布が難しい方には側条施肥がおすすめです。
百津屋商店おすすめの肥料
- マグホス: 豊富なリン酸・苦土の効果で発根を促進
- カスタム: リン酸に加え、カリの効果で地力窒素を引き出す
- マキシム: NPKをバランスよく含み、初期生育を促進
これらの商品については、お気軽に当店へお問合せください。
見落とさないで!田植えルート確認
田植え機で通れるのは一度限り
田植え機を使って作業を行う際、ひとつ大切なポイントがあります。
それは「田植え機で一度通った箇所は2度と通れない」ということです。
この単純ながら重要な事実を見落としてしまうと、行き止まってしまい、作業効率が大幅に下がり、結果的には収穫量にも影響を及ぼす可能性があります。
田植え機で一度通った箇所を再び通ろうとすると、植えたばかりの苗を踏んだり傷つけたりしてしまいます。
これを避けるためにも、事前のルート確認は田植え作業の効率化はもちろんのこと、健康な苗を育てるためにも非常に重要な作業です。
- 田んぼの形の把握(Googleマップの航空写真で見るなど)
- 田んぼの出入り口の位置や幅
- 田植え機の幅
- 田植え機をUターンするスペース
これらを考慮して計画しましょう。
初心者は、田んぼ地図を書いて、田植え機の植え幅を見越してルートを書き込んでおくと良いでしょう。
いざ田植え!よくある失敗例を知っておく
田植えの失敗を避けるには
田植えは、稲作にとって最も重要な作業の一つです。
しかし、ちょっとしたミスで失敗し、収穫量や品質に大きな影響を与えることもあります。
ここでは、田植えでよくある失敗と、それを避けるための対策についてご紹介します。
あらかじめ失敗しやすい点を学び、注意して田植えに臨んでください。
苗の植え付けが「深すぎる」
苗の植え付けが深すぎると、地温が上がりにくい層に生長点が位置するため、初期生育が遅れる可能性が高まります。
田植え機の”標準”設定などを盲信せず、必ず植えた苗の深さを確認しましょう。
対策:
- 田植え機の調整を確認し、適切な深さ(3㎝)に植え付ける。
悪天候での田植え
天気の悪い日は地温が低くなりやすく、苗の活着速度に大きく影響します。
また、風の強い日は苗があおられて体にダメージを負ったり水分の蒸発で葉が巻いたりしやすいです。
強風は欠株発生の大きな原因にもなります。
対策:
- 天気予報をチェックし、風のない晴天の日に田植えを行う。
条が曲がる
初心者はまっすぐ植えているつもりでも条が曲がりやすいです。
条間が狭くなったり見た目も悪くなります。
対策:
- 感覚に頼らず、マーカーや進行方向の延長線上に目印を決めて、ゆっくり進行しましょう。
欠株の発生
苗が植えられていなかったり抜けてしまった部分を欠株と呼び、連続した欠株は収量の減少につながります。
根がらみの悪い苗や軟弱徒長の苗は、うまく植えられずに欠株になってしまう可能性があります。
強風の日には植えられた苗が抜けやすいです。
田植え機への苗の補給忘れにも気をつけなければなりません。
対策:
- 健全な苗作りを実行しましょう。
- 田植えの日の天候にも気を配りましょう。
- 田植え機の苗の減り方にも注意しましょう。
いつまでも補植苗を置いておく
田植え時の欠株部分に補植するための苗を田んぼの端に置いておくことがありますが、補植後もそのまま置いておくことで、それらが栄養を無駄に吸収してしまいます。
いもち病の発生源にもなりやすいので要注意です。
対策
- 補植苗は補植が終わったら速やかに撤去しましょう。
田植えには様々な失敗例があります。
これらの失敗例を参考に、対策を講じて成功を目指しましょう。
事前準備と計画の重要性を忘れずに。
まとめ
田植えは稲作の心臓部とも言える作業です。
適切な時期を逃さず、計画的に進めることが収量アップや品質向上につながります。
田植え作業前には、苗の育成状況や気象条件、人員体制などを総合的に判断し、タイミングを見極める必要があります。
また、田植え機の取り扱い方法を熟知し、試運転でトラブルがないか確認しておくことも欠かせません。
作業当日は、田んぼの水位(落水状態)や土壌状態が適切であることを確認してから着手します。
田植えのルート確認を怠らず、田植え機の一度通った場所は二度と通れないことに注意を払いましょう。
植え付け作業では、深さや条間など適正な設定を守り、慎重に作業を行います。
田植え後は、水管理や肥料散布、雑草対策など、初期生育のフォローが大切になります。
経験を重ねるごとに、上手な田植え作業ができるようになっていくでしょう。
初心者もベテランも、毎年が挑戦。
この章で紹介した失敗例とその対策を参考に、着実に技術を高めていってください。
計画的かつ丁寧な作業を心掛ければ、豊かな収穫を実現できるはずです。 豊かな実りを目指しましょう。
補足
上記の対策はあくまでも目安であり、状況によって効果は異なります。 地域の農業指導機関や農協などに相談し、地域の気候や栽培状況に合わせたアドバイスを受けることが重要です。専門家への相談や地域の慣習を参考に、臨機応変に対応してください。
<御礼>
「年齢不問!稲作で食べていく!農業0~1年生×稲作×土づくりをしっかり学ぶ15本」シリーズも今回で15回目を数え、最終回となりました!
初めての稲作に挑戦する方々に向けて、役立つ情報を提供してきましたが、それが皆さんの役に立っていることを心から願っています。
読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
これからも、農業を楽しむ皆さまへより良いコンテンツをお届けできるように努めてまいります。
シリーズについて
「年齢不問!稲作で食べていく!農業0~1年生×稲作×土づくりをしっかり学ぶ15本」
このシリーズは、稲作について何から手をつければよいか分からない農業未経験・稲作農業0〜1年生のための基礎ガイドを投稿しています。
なんとなく稲作農業に興味が湧いてきた、異業種から農業に意を決して転身、代々農家の後継ぎを決意、農業無知で稲作農家に嫁ぐ・・・などきっかけは様々でOK。
基本から学ぶ土作りのステップをなるべく楽しく学べて実践へ活かせるように、わかりやすく解説していきます。
稲作初心者の方のお役に立てたら何よりです。
百津屋商店 代表:和田 一男
稲作の教科書に載っていない秘訣を伝授します!
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