13_最高の苗を目指す「 田植え前のハウス温度・水・肥料管理」ガイド - 有限会社 百津屋商店

13_最高の苗を目指す「 田植え前のハウス温度・水・肥料管理」ガイド

初めての稲作にチャレンジする皆さん、ゆるっと農業入門をご覧いただきありがとうございます。
苗の生長が愛おしくも感じるのではないでしょうか。

これまで、稲作にとって土壌がなぜ大事なのか、土壌を知ることでもたらされる大きな影響、土壌改良で導かれる稲作成功への道などを学んできました。

復習はこちら

そして前回は「稲の育苗におけるハウス管理の基本」を学びました。

いよいよ、田植えは目前です。
気を抜かずに、田植えに向けて「ずんぐり苗」を育てましょう。

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テーマ13

田植え前の苗の管理

水稲栽培における苗作りは、健苗を育成し、高収穫を目指すために重要な工程です。

水稲の育苗は、種まきから田植えまで様々なステージがあります。

今回は、理想的な健苗に向けた、水稲育苗の各段階における管理方法やポイントを初心者の方にもわかりやすく解説します。

健苗とは?理想的な苗の姿

葉の黄化 (5)

丈夫に健康に強くたくましく

水稲栽培において健苗とは、生長が良好で健康的な特徴を備えた稲の苗のことを指します。
田植えに向けて理想的なずんぐりした苗のことです。

健苗は稲作での成功に直結する重要な要素です。
以前にもお話したとおり「苗半作」といい、稲作の半分は苗作りで決まります。

健苗でない場合、以下のような問題が発生する可能性があります。

  • 生長の遅れ: 根系や茎が弱く、生育が不均一になりやすく、結果的に収穫量に大きく影響します。
  • 病害の影響: 育苗中に病害が発生した場合、生長が妨げられたり、不稔になったりします。
  • 倒伏の危険性: 根茎の素質が悪く、軟弱徒長しやすくなり、倒伏の危険性が高まります。
  • 収穫量の減少: 不健康な苗は、収量も品質も低下する可能性があります。

やはり、稲作において健苗を育成することは、安定した収穫量と高品質な稲を実現するために非常に重要です。

ずんぐり苗とは?

理想的な苗は、茎が太く、葉肉が厚く、葉が立っている「ずんぐり苗」です。
地上部の充実だけでなく、太く長い根、豊富な根毛も重要です。

ずんぐり苗のメリット

  • 丈夫な茎:根から吸収した水や養分を葉へ運びます。葉や穂を支え、倒伏も防ぎます。
  • 厚い葉肉:光合成によって養分を生産しやすくなります。
  • ピンとした葉:葉が立ち上がっているため、光が差しやすく光合成効率が高まります。
  • 丈夫な根:水分と養分の吸収効率がグンと向上します。根で地盤をしっかり捉えるため、倒伏防止にもなります。

苗の生育ステージ

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草丈・葉齢で見分けるコツ

水稲の苗は生長段階に応じて、「稚苗」「中苗」「成苗」と大きく3段階に分けられます。

葉齢、草丈で簡単に見分けることができます。
それぞれの特徴、適した栽培方法、注意点などをご紹介します。

稚苗(ちびょう)

稚苗は、苗が初期の生長段階にある状態を指します。多くの農家がこの段階で田植えを行います。

  • 葉齢:2.5~3.5
  • 草丈:13~15cm
  • 特徴:
    • 葉数が少なく、幼い
    • 栽培期間が短い

この時期の苗はまだ若く、根系も完全には発達していませんが、健康な根の発展の基礎を形成しています。
胚乳の養分で生育できるので、チッソ系の追肥を必要としません。
稚苗期は外気温に耐えられるように慣らすための大切な時期です。
水稲の苗がこの段階を経ているときは、特に温度管理に気を付け、適切な環境を提供することが重要です。

中苗(ちゅうびょう)

中苗は、稚苗からさらに生長した段階です。

  • 葉齢:3.5~4.5
  • 草丈:15~17cm
  • 特徴:
    • 稚苗と成苗の中間の状態
    • 栽培期間と収量のバランスが良い

この時期になると、苗はより強く健康に生長し、根系も発達してきます。
中苗期の苗は、外部の環境変化に対してある程度の耐性を持ち始め、栄養素の吸収能力も向上します。
適切な水管理と肥料の追加が、この段階での苗の健全な生長をサポートします。

成苗(せいびょう)

成苗は、水稲の苗が田植えに適した最終的な生長段階です。

  • 葉齢:4.5~5.5
  • 草丈:17~19cm
  • 特徴:
    • 葉数が多く、成熟している
    • 栽培期間が長い
    • 田植え後の生育が良く、収量も見込める

この時期の苗は、稚苗や中苗の段階を経て分けつも発生し始め、しっかりとした根系と太く健康な茎を持ち、田植えに最適な状態にあります。
成苗は、田植え後の早期の根付きや生長を促進するための強い基盤を持っています。

あなたに合った育苗ステージを選びましょう

育苗ステージは期間が長くなるほど、追肥などの手間がかかりますが、苗質は良いものになりやすいです。
「稚苗」「中苗」「成苗」それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、あなたに合った育苗ステージを選択しましょう。

例えば、

  • 育苗中の管理にあまり手間をかけられない場合、稚苗での田植えが向いています。
  • 田植えの面積が多く、田植えの期間が長くなる場合、前半の田植えには稚苗、後半分は中苗まで管理します。
  • とにかく高品質・多収穫を目指す場合、成苗がおすすめです。

これに関しては、初心者のうちは必ず地域の先輩農家、農業指導機関などに確認するようにしましょう。
新潟県の方でしたら、お気軽に当店へご相談ください。

ここまでで、あなたが田植え前に目指すべき苗の姿は明確になりましたでしょうか。

注意点

「稚苗」を目指していたのに、うっかり時期を逃して「中苗」にまで育ってしまったという場合は、「老化苗」と呼ばれます。
老化した苗は、適切な生長段階を超えてしまい、肥切れ状態になったり、生長が止まってしまったり、または軟弱徒長してしまったりする場合があります。
この状態の苗は、田植え後の生育が不良となりやすく、収穫量の低下や品質の劣化につながるリスクが高まります。

必ず目指すべき状態を明確にして、丁寧に手入れをしていきましょう。

育苗中の温度管理・水管理のポイント

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苗は赤ちゃんのように超敏感

生まれたての苗は、とても敏感でか弱い存在です。

将来的に強くたくましくエネルギッシュになるために、育苗初期はとにかく思いやりを持って育てていきましょう。

春は気温の変化が激しく、人間だけでなく作物もその影響を受けます。
異常気象が日常的になりつつある現代では、気温の急変に対する警戒を怠ることができません。
稲作の育苗期においても、この変わりやすい気温に注意し、天気予報を密にチェックすることに癖をつけたいですね。

さて続いては、苗の生育段階ごとに気を付けていただきたい温度管理・水管理などです。

出芽揃い期

播種後草丈温度管理
3~4日0.5~1.0cm28~30℃

※育苗機の場合、この工程は育苗機内で行われます。
本記事で記載している温度はハウス育苗の場合を想定しております。ご了承ください。

温度管理・換気
日中の換気と夜間の保温が重要です。
【日中】35℃を超えると高温障害のリスクがあるため、必要に応じてハウスのビニールを開けて適切に換気することが必須です。
【夜間】保温が重要で、夕方以降はドアの開閉を控え、隙間風の侵入を防ぐことが求められます。
必要に応じてランプやストーブを使って温度調節を行うことも一つの手段です。

水管理・潅水
出芽までは潅水は不要です。

被覆資材
ラブシート + シルバーポリトウ(シルバーラブ)
または ミラシート・健苗シート
出芽揃い後は速やかにシルバーポリトウを除去してください。
ミラシート・健苗シートの場合は、そのまま被覆していて大丈夫です。

緑化期

播種後草丈温度管理
4~5日1.5~2.0cm昼24~26℃
夜16~18℃

不完全葉が緑色になるまでの時期です。

温度管理・換気
昼夜で温度管理をし(昼間24~26℃、夜間16~18℃)、適切な換気と保温を心掛けます。
好天日はハウス内が30℃を超えないように換気を注意しましょう。
【換気のコツ】強風の場合は、風下側のみを開けて換気すると良いです。

水管理・潅水
潅水は少なめに。朝にやると良いです。
潅水時はシートをはがして行ってください。

被覆資材
直射日光が強すぎると「白化現象」障害が起きるため、ラブシートなどの適度な透光性のある被覆資材で保護します。
緑化が完了したら被覆資材を取り除きます。

硬化期(第1葉)

播種後草丈温度管理
7~14日4.0~5.0cm昼20~25℃
夜10~15℃

不完全葉の次に出てくる葉(本葉)を第1葉と数えることとします。

温度管理・換気
苗を外気に徐々に慣らし、丈夫な体質に育てる工程です。
【低温育苗】適切な温度(昼間20~25℃、夜間10~15℃)と水分管理を行います。
【換気】朝8時から午後3時の間に行いましょう。

水管理・潅水
基本は朝1回。天気の変動に合わせて水量を調整し、夕方に土が軽く乾いている程度を目安に潅水しましょう。日中、床土まで土が乾いているような場合は追加で散水しましょう。
翌日の朝、葉に露が確認できれば、水やり量は適量という目安です。
潅水のやりすぎは、根の素質が悪くなり、少しの乾燥ですぐに葉が巻いてくるようになります。

プール育苗の場合 水管理・潅水
第1葉が展開し、次の第2葉が出始めたら、箱上1㎝程度の水位に水を入れましょう。
水を入れる時期が早すぎると、出芽不良や根張りが著しく悪くなるので注意が必要です。
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硬化期(第2葉)

播種後草丈温度管理
15~21日10~12cm昼20℃前後
夜10~15℃

温度管理・換気
第1葉が展開して第2葉が出始めたら、さらに外気に慣れさせ、低温や乾燥への耐性を高める時期です。
【低温管理】低温に慣らすことで、苗の耐寒性を高め、徒長を抑制できます。

水管理・潅水
基本は朝1回。第1葉期と同様です。過剰な水やりは徒長や根腐れの原因となるので注意が必要です。

追肥で苗の生長を促進
効果:徒長防止や発根促進
時期:1.5葉期(2枚目の葉が半分くらい伸びてきた頃)
肥料:細粒マグホス細粒ミネラル宝素など
量:苗箱1箱当り30g目安
散布方法:日中の葉が乾いている時間帯。
幼い苗には肥料も衝撃となるため、細粒の肥料を選び、動力散布機を使用する場合は、噴口を上向きにして山なりに優しく落下するようにしましょう。散布後の散水は不要です。

順化期(2.5葉)

播種後草丈温度管理
22~25日13~15cm外気温

水稲育苗の最終段階である順化は、苗を外気に慣れさせ、田植え後の環境に適応できるようにします。
順化によって、苗は耐寒性耐病性を高め、健全な生長を促進します。

温度管理・換気
第2葉が展開したら、順化を開始します。ハウスを全開にし、苗を外気に直接触れさせます。
【外気温】この期間は、外気温に慣れさせます。
異常な天候・強風や豪雨・強烈な日差しによっては、順化期間を調整したりする場合があります。

水管理・潅水
基本は今までと同様に朝1回。

注意点
こまめに苗を観察し、病気や生理障害を見つけたら、早めに対処する必要があります。

このような緻密な管理は最初のうちは、ぜひこちらのページを何度もご覧になって確認しながら実践してください。

田植え前に苗を仕上げる

元気な苗を田んぼに送り出すコツ

田植えは目前です。 しかし、ただ苗を植えるだけでは最高の収穫は期待できません。

田植え前の準備をしっかり行うことで、苗の活着を促進し、その後の生育を促進させることができます。
苗を丈夫にし、病害虫から守るために、いくつかの準備が必要です。

田植え前の準備:2つのポイント

1.弁当肥による栄養補給

苗が田植え後に根付くまでの間、必要な栄養を供給します。

  • 時期:田植えの2日前~前日
  • 肥料の種類:液肥や粒状肥料など
  • 効果:
    • 田植え後の肥料切れを防ぎ、苗の活着を促進します。
    • 分けつの促進により、収穫量の増加が期待できます。

弁当肥」には液肥や粒状肥料など様々な種類があります。
効果の短い化成肥料より、有機質肥料の方が良質な栄養分を長く供給できます。
散布後は肥料焼けを防ぐため速やかに散水しましょう。

<百津屋商店おすすめ弁当肥
・多木有機液肥
・ハイステージ7号

2. 箱処理剤による病害虫対策

田植え前には箱処理剤として苗箱に農薬を散布します。

  • 時期:田植え前
  • 種類:虫に特化、病気に特化、両方に効くものがある
    • 殺虫剤
    • 殺菌剤
    • 殺虫殺菌剤
  • 効果:
    • 病害虫の発生抑制

※箱処理剤の種類や散布量は、地域の慣行や栽培品種によって適応が異なる場合があります。
箱処理剤は、安全に使用するために、ラベルをよく読んで指示に従いましょう。

弁当肥と箱処理剤を適切に使用することで、苗を健全に育て、稲作を成功させましょう。

田植えができる苗の完成です。

まとめ

大切に育てた苗は、田植え後、大きく生長し、美味しいお米へと実っていきます。
田植え前に目指すべき苗の姿は、「ずんぐり苗」です。

  • 茎が太く、葉肉が厚く、葉が立っている
  • 地上部だけでなく、太く長い根、豊富な根毛も重要

健苗育成は、稲作成功の鍵です。

  • 各生育ステージの特徴と管理方法を理解する
  • 適切な温度管理・水管理を行う
  • 田植え前に弁当肥と箱処理剤を使用する

苗は、まだ幼く、とても繊細です。
水やりや肥料、温度管理など、一つ一つの作業を丁寧に、愛情込めて行いましょう。
丁寧に育て上げた苗は、田植え後、水田という新たな環境に適応し、太陽の光と水、土の栄養を吸収して、力強く生長していきます。
苗を育てることは、大変な作業もありますが、同時にとても楽しいものです。
日々の生長を観察したり、自然と触れ合ったりしながら、稲作を存分に楽しんでください。


以上のポイントを参考に、自信を持って田植えを迎えましょう。

補足

上記の対策はあくまでも目安であり、状況によって効果は異なります。 地域の農業指導機関や農協などに相談し、地域の気候や栽培状況に合わせたアドバイスを受けることが重要です。専門家への相談や地域の慣習を参考に、臨機応変に対応してください。

育苗については、育苗現場の実例を掲載した記事が複数あります。
以下の記事もぜひご確認ください。

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参考・出典:

稲作情報_JA北魚沼・魚沼農業普及指導センター
売れる米づくり技術情報№2_J Aえちご中越

シリーズについて
「年齢不問!稲作で食べていく!農業0~1年生×稲作×土づくりをしっかり学ぶ15本」
このシリーズは、稲作について何から手をつければよいか分からない農業未経験・稲作農業0〜1年生のための基礎ガイドを投稿しています。
なんとなく稲作農業に興味が湧いてきた、異業種から農業に意を決して転身、代々農家の後継ぎを決意、農業無知で稲作農家に嫁ぐ・・・などきっかけは様々でOK。
基本から学ぶ土作りのステップをなるべく楽しく学べて実践へ活かせるように、わかりやすく解説していきます。
稲作初心者の方のお役に立てたら何よりです。

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百津屋商店 代表:和田 一男

新潟県で50年。
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著者情報

和田 浩一

和田 浩一

2005年に入社し、施肥技術指導員、一般毒劇物取扱者の資格を取得。
お客様の田んぼや畑でのお悩みを聞き取り、わかりやすい指導を心がけています。 ホームページにて農家の皆さんのお役に立てる情報記事を発信中。

趣味で事務所に展示しているメダカ・熱帯魚水槽にはお客様から「癒される」とお褒めいただいています。

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