初めての稲作にチャレンジする皆さん、ゆるっと農業入門をご覧いただきありがとうございます。
苗の成長が愛おしくも感じるのではないでしょうか。
これまで、稲作にとって土壌がなぜ大事なのか、土壌を知ることでもたらされる大きな影響、土壌改良で導かれる稲作成功への道などを学んできました。
前回は「種まきの秘訣とポイント」を学びました。(前回の記事はこちら)
さて、ここまでの努力が少しずつ伸び始めたら、健全な苗を育て上げていきましょう。
ハウス育苗での注意点
育苗は稲作の基礎であり、そのスタートを切る大切な工程です。
多くの農家が種まき後に「ハウス内育苗」を行っています。
ハウス内での育苗は、外の環境から苗を守りながら、コントロールしやすい条件下で育て上げることができる効率的な方法です。
しかし、その成功には緻密な管理がカギを握ります。
今回は、ハウス内における注意点を設備的な観点から、地ならし、隙間管理、水滴落下対策、そして温度差の管理に焦点を当てて、初心者の方にもわかりやすく解説していきたいと思います。
なぜ田植え前に育苗が必要なのか
育苗は欠かせないステップ
田植え前に育苗を行うのは、稲作にとって非常に重要です。
田植えの前に育苗が必要な理由は、苗を健康で強く成長させるためです。
もし育苗をせずに直接田んぼに種もみを播いた場合、多くのリスクやデメリットが生じるため、安定した収穫量や高品質な米作りを実現できません。
つまり米農家の収入に影響します。
ハウス育苗をする主なメリットは
- 生育環境のコントロール:育苗期間中、苗の成長環境(温度、湿度、光など)を最適に管理できます。
- 成長の均一化:均一なサイズと質の苗を育てることができ、田植え後の生育が安定します。
- 収穫量の増加:健康で強い苗を植えることで、収穫量が増加する可能性があります。
もし育苗をしなかった場合、以下のような問題が発生する可能性があります。
- 苗の成長が不均一になり、収穫量や品質が低下する
- 最終的な収穫時期が遅れる
- 鳥害による被害が発生する
これらの理由から、田植え前に育苗を行うことは、稲作の成功にとって非常に重要です。
安定した収穫量と高品質な米作りを実現するために、欠かせない作業として力を抜かずに取り組んでください。
健苗育成のためのハウス内育苗
平床育苗・プール育苗
水稲のハウス育苗方法は、大きく分けて2種類「平床育苗法」と「プール育苗法」があります。
どちらの育苗方法を選ぶかは、栽培規模、作業量、地域の気候、予算などを考慮して決定する必要があります。
平床育苗法
育苗箱を平らな場所に並べて管理します。
メリット
・水やりは自主管理ができるため、適度な潅水で根の素質を強化でき、徒長を抑えやすいです。
・生長点が常に水で守られていないため、適度な環境の刺激(温度変化や風)を与えることで苗質を強くできます。
・プール育苗と比較すると初期費用が比較的安いです
デメリット
プール育苗と比較すると、潅水の手間がかかります。
プール育苗法
ハウス内に浅く水を張りプール状態にして、そこに苗箱を並べます。
メリット
・常に水があるので、潅水の必要がありません。
・生長点が水で守られているので、平床よりも環境変化に気を使わなくて良いです。
デメリット
・プールの設備・設営が必要となります。
・徒長しやすく、苗の素質が平床よりも軟弱になりやすいとも言われています。
育苗方選択アドバイス
- 初期投資と運用コスト:予算や将来の運用コストを考慮して選びます。
- 労力と作業の効率化:作業の効率化を重視する場合は、プール育苗が適しています。
- 技術と管理のしやすさ:育苗の技術や管理のしやすさを考慮して、自分の状況に合った方法を選びましょう。
ハウス育苗のポイント
水平な地面
地ならし・水平にする
ハウス育苗は、天候に左右されずに苗を育てることができる、稲作にとって重要な技術です。
しかし、ハウス内であっても、苗を健やかに育てるためには、様々な対策が必要です。
初心者が見落としがちなポイントも踏まえていくつか対策をご紹介します。
ハウス内の地面は、しっかりと地ならしをして水平になるようにしましょう。
ご存知の通り、水分は高い方から低い方へと移動するため、地面が水平でないと、育苗箱内の水分バランスが均一でなくなり、生育にムラが出てしまいます。
プール育苗の場合は、水平でないと水面の高さが異なり、水位の調節が困難になります。
そして、地面がデコボコだと、苗箱の底面が接地している場所とそうでない場所によって水はけが違ってきて、生育にムラが出たり乾燥でしおれたりします。
見落としがちなポイントですが、注意して整えてください。
ハウスは隙間ゼロへ
隙間を徹底的にふさぐ
ハウス内の隙間は、冷気の侵入経路となります。
ハウス内での育苗時に隙間を徹底的にふさぐことは、温度管理において非常に重要です。
ハウス内の温度を一定に保つことができ、苗の均一な成長にも貢献します。
隙間から冷気が侵入すると、ハウス内の温度が低下し、苗の成長に悪影響を与える可能性があります。
特に、出入り口や窓などの可動部分に隙間ができやすいため、ビニールやテープを使用して徹底的に隙間を塞ぐことを推奨します。
育苗ハウスは上もチェック
水滴落下に注意
稲作の育苗ハウスでは、鉄骨パイプからの水滴落下が問題となります。
これは、雨や湿気がパイプにたまり、下に落ちることで苗に直接影響を与えるためです。
特に、錆びたパイプからの水滴は苗に有害で、最悪の場合、苗が枯れてしまう可能性があります。
この問題に対処するためには、水滴の落ちやすい場所を事前に特定し、落下対策を施すか、苗箱をその地点から避ける必要があります。
水滴落下の問題は、適切な対策を講じることで管理することが可能です。
目線は、下だけではなく上も見上げてチェックましょう。
育苗ハウスの管理において、このような細かな注意点が作物の品質を左右することを忘れないでください。
ハウス内温度を均一にする工夫
ハウス内の温度差を抑える
稲作のハウス育苗での重要なポイントの一つが「温度差を抑える」ことです。
ハウス内の温度は一様ではなく、特に外側に近い場所は冷気の影響を受けやすいため、温度差が生じます。
この温度差を抑えるために、一番外側の苗箱の隣に板などを設置することが効果的です。
板を設置することで直接冷気が苗に触れるのを防ぎ、時には風の吹き込み対策ともなるため、結果として生育のムラを減らすことができます。
苗は風にも敏感
直に風に当てない対策
まだ幼い苗の葉は、直接風に当たるとダメージを受けてしまいます。
苗にとって風は大きな敵となり得るのです。
特に、ハウスの入り口は、換気や作業のために開ける必要があるため、風が入ってくる場所です。
温度管理のためにハウスの入り口を開けておく場合は、苗に直接風が当たらないように対策が必要です。
ハウスの入り口に板を立てかけることで、苗に直接風が当たるのを防ぐことができます。
また、風の影響を受けにくい場所に苗箱を置くことでも、ダメージを軽減することもできますので配置も工夫をしてみてください。
温度計の正しい設置でハウス内温度管理
温度計、地温計は苗目線で複数用意する
ここまでの内容を読まれていれば、すでにご理解いただけているかと思いますが、苗にとって温度は非常に重要であり、適切な温度管理が成功の鍵となります。
温度が低すぎると、発芽が遅れたり、生育が鈍ったり、カビが発生しやすくなったりします。
逆に、温度が高すぎると、徒長したり、高温障害を起こしたり、しおれてしまったりする可能性があります。
温度計は3つ以上設置
ハウス内は場所によって温度が異なるため、少なくとも入り口側、中央、奥側の3ヶ所に温度計を設置しましょう。
苗の高さに設置
苗箱は人間の顔の高さではなく、足元に置かれているため、温度計も苗と同じ高さに設置する必要があります。
低い位置に設置することで、苗が実際に受ける温度を正確に測定することができます。
そのため、吊り下げできるタイプの温度計がおすすめです。
被覆資材の中にも設置
被覆資材(後述)をかけている場合は、その中の温度も測れるようにしましょう。
被覆資材によって温度が上昇したり、外気温の影響を受けにくくなったりするため、内部の温度を把握することは温度管理に欠かせません。
地温計の使用
地温計の使用によって土壌温度を把握することで、健苗育成に役立てることができます。
育苗用被覆資材の重要性・選び方
被覆資材を使いこなす
被覆資材は、適度な遮光性と保温性を持ち、苗を過酷な気候条件や外的要因から保護します。
また、水分の蒸発を抑えたり、土壌の温度と湿度を安定させることで、種の発芽率と苗の生育を促進します。
適切な被覆資材の選択と使用は、健康な苗を育てる上で不可欠です。
ラブシート、シルバーポリトウ、シルバーラブ、ミラシート・健苗シートなど、様々な種類があり、それぞれ特性と用途が異なります。
適切な被覆資材を選択することで、遮光、保温、保水などの効果を得られますが、使用方法や期間に注意が必要です。
例えば、シルバーポリトウは出芽までの保温に適していますが、長期間の使用は徒長と苗焼けのリスクを高める可能性があります。
適切な被覆資材の選択と管理は、健康な苗を育てる上での重要なポイントです。
代表的な被覆資材
ラブシート
- 不織布でできた農業用のシート
- 適度な遮光性と保温性がある
- 特化した能力はないがオールマイティに使える
シルバーポリトウ
- アルミでコーティングされたポリフィルム
- 適度な透光性と保温性がある
- 無加温での出芽まで使用する
- 出芽後も使い続けると、“苗焼け”や“ムレ苗”の原因になる
- 使用期間に注意が必要
シルバーラブ
- ラブシートとシルバーポリトウが片面接着された資材
- 通常、ミラシート・健苗シートを使わない場合は、ラブシートの上にシルバーポリトウを重ねて被覆する
- この商品は2つの資材が接着されているため、被覆作業が半減される
- 出芽後はシルバーポリトウだけを端までめくっておく
ミラシート・健苗シート
- ポリエチレン製の厚みのある白いシート
- 高い遮光性と高い断熱性、保水性に富んでいる
- 断熱性のおかげで“苗焼け”の心配がない
- 一方で、かけたままではシート内の温度も上がりにくい
- 保水性も高いため、潅水量に注意が必要
百津屋商店のおすすめ被覆資材
百津屋商店イチオシは
「ラブシート + シルバーポリトウ(シルバーラブ)」です。
二重被覆でスタートし、シルバーポリトウの保温性によって発芽揃いを促進し、その後はラブシートによって適度に苗を守ってあげることで、素質の良い健苗に仕上げられます。
鳥獣害対策の重要性
苗を鳥獣から守りぬく
ハウス育苗での鳥獣害は、稲作において重要な問題です。
鳥獣害による被害
- 鳥による種もみの食い荒らし
- 鼠による種もみの食い荒らし、尿の毒素による苗の枯死
- 猫などによるイタズラ
これらの被害を受けた苗箱は田植えに使えなくなってしまうため、早急な対策が必要です。
鳥獣害を防ぐためには、以下の対策が有効です。
防鳥ネットや鳥よけグッズの設置
防鳥ネットを設置することで、鳥の侵入を防ぐことができます。
防鳥ネットは、目の細かいものを選び、強風などで破損しないよう、しっかりと固定する必要があります。
また、ハウスの外に風で動く鳥よけグッズを設置するのも効果的です。
※鳥獣害対策は、地域によって異なる場合があります。
忌避剤の散布
ハウス内だけでなく、ハウス周辺にも鼠などの害獣が嫌がる臭いのする忌避剤を散布することで、動物を遠ざけることができます。
忌避剤は、雨に濡れても効果が持続するものを選ぶと良いでしょう。
ただし、人やペットに影響がないものを選ぶようにしましょう。
その他の対策
- ハウスの隙間を徹底的に塞いで、動物の侵入を防ぐ
- 光や音で動物を威嚇する装置を設置する
- 地域によっては周辺の農家と協力して、共同で対策を行う
ハウス育苗で成功するためには、鳥獣害対策は欠かせません。
今回ご紹介したポイントを参考に、ぜひ実践してみてください。
まとめ
田植え前の育苗期間を設けることは、稲作の成功において非常に重要です。
今回は、なぜ育苗が必要なのか、そして育苗期間中に取り組むべき具体的なポイントを解説してきました。
ハウス育苗のポイント
- 地ならし・水平
- 隙間を徹底的にふさぐ
- 水滴落下に注意
- 温度差を抑える
- 直風に当てない
- 温度計、地温計を複数用意
- 被覆資材の適切な選択と使用
- 鳥獣害対策
百津屋商店のおすすめ被覆資材は「ラブシート + シルバーポリトウ」です。
ハウス育苗について、初心者の方には特に気をつけていただきたい様々なポイントをご紹介しました。
これらのポイントを適切に管理することで、健康で強い苗を育て、高品質な米作りにつなげることが可能です。
健苗を育成し、安定した収穫量と高品質な米作りを実現を目指しましょう。
補足
上記の対策はあくまでも目安であり、状況によって効果は異なります。 地域の農業指導機関や農協などに相談し、地域の気候や栽培状況に合わせたアドバイスを受けることが重要です。専門家への相談や地域の慣習を参考に、臨機応変に対応してください。
育苗については、育苗現場の実例を掲載した記事が複数あります。
以下の記事もぜひご確認ください。
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シリーズについて
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なんとなく稲作農業に興味が湧いてきた、異業種から農業に意を決して転身、代々農家の後継ぎを決意、農業無知で稲作農家に嫁ぐ・・・などきっかけは様々でOK。
基本から学ぶ土作りのステップをなるべく楽しく学べて実践へ活かせるように、わかりやすく解説していきます。
稲作初心者の方のお役に立てたら何よりです。
百津屋商店 代表:和田 一男
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